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14_04 お互いの道 姫乃side

last update Last Updated: 2025-09-16 05:02:29

仕事の方も順調で、庶務リーダーとして正式に任命を受けた。ゴタゴタしていた業務も整理ができて、ようやく軌道に乗ったなという感じ。

ずっと下っ端で頼ってばかりだった立場も、頼られる立場に変わってきた。責任感も芽生えて、今まで以上に充実しているし、スキルアップしていることも感じる。

何もかも順調だと思っていた。これ以上の変化が起こるなんて、想像すらしていなかった。

その日もお互い忙しくて、でも同棲しているから遅くに一緒に夕飯を食べていた。何も変わらない、いつもの日常。この後はお風呂に入って一緒にお布団に入って……。

樹くんが箸を置く。ごちそうさまでしたときちんと挨拶をして、いつもなら食器を下げるためにすぐに席を立つのに、今日は座ったまま。不思議に思っていると、突然樹くんが真剣な表情で私を見つめた。

「姫乃さん」

「うん、どうしたの?」

「俺、転勤になった」

予想外の言葉に、一瞬喉が詰まる。

「て、転勤? どこに?」

努めて冷静に聞いたつもりだったけれど、少し声が掠れてしまった。心なしかドッキンと心臓が音を立て始める。樹くんのあまりにも真剣な顔に、空気がピンッと緊張するかのごとく張り詰めた。

「ベトナム」

「……海外なの?」

「新規プロジェクトの立ち上げメンバーとして行くことになった。数年行くことになりそうなんだ」

「数年?」

おうむ返しのようにしか返事ができない。

それくらいに私は動揺していた。

だってまさか海外に転勤だなんて、予想だにしていなかったからだ。

そして樹くんは席を立ち、私の横まできて左手を取った。

何事かと、樹くんを見上げる。

「俺に着いてきてほしい。結婚してください」

「え……」

突然のプロポーズにドキドキと胸が高鳴った。

嘘?

本当に?
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  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   14_08 お互いの道 姫乃side

    「待っててよ。焦って他の男と結婚しないで」「しないよ。待つ、待ちます。樹くんこそ、浮気しないでね」「誰に言ってるの?」樹くんは意地悪そうに笑うと、私の左手を取って指輪にキスを落とした。前にも一度同じようなことをされたけど、その時以上に胸のときめきが抑えられない。ドキドキと心臓が悲鳴を上げているようだ。「俺のことしか考えられないようにしてあげようか?」ぐいっと引き寄せられると、深いキスが落とされた。幸せな気持ちにすぐに溺れそうになる。「樹くん、好きだよ」「もっと言ってよ。もっと姫乃さんから、好きって言ってもらいたい」「大好き、樹くん。大好き!」ぎゅっと、自分から樹くんの首に手を回した。抱きしめ返してくれる力強さが心地良い。この幸せが、もうすぐなくなってしまう。自分が決めたことなのに、心が寂しいと泣いている。「……ただの遠距離恋愛になるだけだよ」「……そうだよね」「……日本に戻ったら、今度こそ結婚してほしい」「……ありがとう。待ってるね」優しく笑みを落とす樹くんの手が、私の手と絡み合う。その温もりが愛しすぎて、ほどくことができなくなった。見つめ合い、絡み合う視線は甘く優しく、そしてまたゆっくりと唇が重ねられた。離れることは別れじゃない。お互いの道を進んだその先に、二人の未来がある。今はちょっと泣けちゃうけど……。「春は出会いと別れの季節だもんね」「姫乃さんと出会ったのも春でしたね」季節は巡っていく。そうやって、二人で思い出を積み重ねていくんだろう。「私、樹くんと出会えて幸せ」「俺の方こそ。これからもよろしく」「よろしくね」「愛してるよ、姫乃さん」「あい……」「うん、愛してる」きゅんと胸が苦しくなって樹くんにしがみついた。嬉しくても涙が出るんだと、初めて知った。また数年後、あのときは泣いちゃったよねって笑えるように。私は樹くんと、愛を深めていくんだ。【END】

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   14_07 お互いの道 姫乃side

    しばらくの沈黙ののち、「はあ」と樹くんの深いため息が聞こえた。「姫乃さん、顔上げて」そう言われて恐る恐る顔を上げると、樹くんと視線が絡まる。 優しく微笑んでくれるその眼差しに、胸がきゅっと悲鳴を上げた。「姫乃さん、結婚遅くなるよ。それでもいいの?」「うっ……」樹くんが言うのはもっともだ。だって私はずっと、彼氏が欲しいって焦っていたし、本当は三十歳までに結婚したい……なんて淡い夢も描いていたからだ。プロポーズを断れば、当然そんな夢もついえるわけで、すべてが終わってしまう。「……しかたないよね、私がそう選んだんだから。樹くんとは結婚できなくなっちゃうけど……、ほら、おみくじに焦っちゃいけないって書いてあったし。だから……」言いながら、目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。 あれ、なんでだろう。だって、そう決めたのは私なのに、胸がぎゅっと締めつけられて苦しい。つらい。「何で泣くの?」「だって、やっぱり樹くんのこと好きだから……」私は欲張りだ。自分のキャリアも捨てたくないけれど、樹くんとも別れたくないと思っている。どちらかを選択することはできなくて、でも選択しなくちゃいけなくて……。気持ちが揺らいで波にのまれそう。樹くんの手がすっと伸びてきて、私の涙をそっとすくった。そしてそのままぎゅうっと抱きしめられる。優しい抱きしめ方。いつもの樹くんのにおい。その胸に頭をもたげた。「俺、結婚断られたからって姫乃さんと別れる気ないよ」「え……」「それに、おみくじの焦るとダメは恋愛運。結婚は別でしょ」「……別れなくていいの?」「俺さ、立派になって帰ってくるから、それまで待っててくれる?」「……待ってていいの?」まさかの言葉に私は驚きを隠せず、涙が一瞬引っ込んだ。 驚愕の表情で樹くんを見ると、目を細めて甘く微笑む。 それがとてつもなく色っぽく見えた。

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    樹くんからプロポーズされて数日、私はずっと考えていた。どちらを選択するのが正しいのか、私はどうしたいのか。いつも通りの日々が過ぎていく。その間、樹くんは私を急かすことなく、普段と何も変わらない生活をしてくれた。そんな気遣いが、泣きそうになるくらい優しかった。樹くんと海外に行って生活をすることも想像してみたけれど、胸に引っ掛かるのはやはり自分のキャリアのこと。どうしても天秤にかけてしまう。何日も葛藤の末、出した答えは――「樹くん、結婚することはできません。ごめんなさい」いつもの食卓で私は頭を下げる。樹くんの表情を見るのが怖くて顔が上げられない。沈黙が、やけに長く感じた。樹くんが箸を置く音が耳に届く。 「はぁ」と小さな息を吐く声も聞こえた。「姫乃さん、俺のこと好きじゃない?」その言葉に、バッと顔を上げて首を横に振る。そんなことない。 樹くんのことは大好きだ。 好きで好きでたまらないに決まっている。「じゃあ……」樹くんが困惑の表情を浮かべた。 私はスカートの裾を握りしめる。「……私、仕事のキャリアを捨てたくないの。樹くんが自分の仕事に誇りを持っているように、私も自分の仕事に誇りを持ってるから」自分が決めたことを伝えているだけなのに、声が震えてしまう。 強い意思で決めたはずなのに。 考えれば考えるほど、樹くんへの想いが募る。 そんな迷いを振りきるように、一気に気持ちを吐き出した。「私、庶務グループのリーダーに正式に任命されたの。そこで頑張ってみたいの。だから……、仕事を辞めて結婚することができないです。ごめんなさい」しっかり前を向いて言いたかったのに、結局顔を上げることはできなかった。 胸がヒリヒリする。

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   14_05 お互いの道 姫乃side

    すごく嬉しい。 じわじわと身体中から嬉しさが溢れ出そうになった。だけど……。「それは私が仕事をやめて、ついていくということだよね?」一応確認してみる。案の定、樹くんはコクンと頷いた。「そうなるね」どうしてだろう、とても嬉しいのに、その場で承諾することができなかった。だって、私も新しい部署のリーダーに抜擢されたのだ。樹くんのエリートコースとは遠く及ばないけれど、私もきちんと評価されたことが嬉しくて、仕事にやりがいも見出している。結婚して樹くんのお嫁さんになることはとても嬉しくて幸せで夢のようだけど……。「……ごめん、少し考えさせてほしい」声が震えてしまう。 樹くんの表情も陰った。「あ、いや、結婚はしたいし、プロポーズされてすごく嬉しいんだけど、仕事をやめて海外に行くっていうイメージが湧かなくて。だから、……ごめんね」「いや、いいよ。俺も納得して着いてきてほしいし。考えてみて」「……うん」本当にバカだと思う。アラサー独身彼氏なしだった私が、こんなにも素敵な彼氏ができて、しかもプロポーズまでされたのだ。だったら二つ返事で承諾すればいいじゃないか。それが幸せってものでしょう?それにこのタイミングは恵まれている。今を逃したら、私はもう結婚できないかもしれない。ううん、結婚どころか、恋人さえもうできないんじゃないだろうか。樹くんのことは大好きだし、すごく大切にしてくれてることもわかっている。 この幸せを逃してはいけないと、頭の中の私が警鐘を鳴らす。だけど私の仕事のキャリアは? やめてしまったらゼロになるのでは? 庶務チームでリーダーをやってみたい。それくらい、私は仕事のことも大切にしてきたし、なにより今回、評価されたことが嬉しかったのだ。男性しか出世できないと言われているこの会社で、一筋の光が見えた。それが、私の心に響いて胸を熱くする。きちんと評価されるこの環境で、今以上に頑張りたい、道を開きたいともう一人の私が言っている。

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   14_04 お互いの道 姫乃side

    仕事の方も順調で、庶務リーダーとして正式に任命を受けた。ゴタゴタしていた業務も整理ができて、ようやく軌道に乗ったなという感じ。ずっと下っ端で頼ってばかりだった立場も、頼られる立場に変わってきた。責任感も芽生えて、今まで以上に充実しているし、スキルアップしていることも感じる。何もかも順調だと思っていた。これ以上の変化が起こるなんて、想像すらしていなかった。その日もお互い忙しくて、でも同棲しているから遅くに一緒に夕飯を食べていた。何も変わらない、いつもの日常。この後はお風呂に入って一緒にお布団に入って……。樹くんが箸を置く。ごちそうさまでしたときちんと挨拶をして、いつもなら食器を下げるためにすぐに席を立つのに、今日は座ったまま。不思議に思っていると、突然樹くんが真剣な表情で私を見つめた。「姫乃さん」「うん、どうしたの?」「俺、転勤になった」予想外の言葉に、一瞬喉が詰まる。「て、転勤? どこに?」努めて冷静に聞いたつもりだったけれど、少し声が掠れてしまった。心なしかドッキンと心臓が音を立て始める。樹くんのあまりにも真剣な顔に、空気がピンッと緊張するかのごとく張り詰めた。「ベトナム」「……海外なの?」「新規プロジェクトの立ち上げメンバーとして行くことになった。数年行くことになりそうなんだ」「数年?」おうむ返しのようにしか返事ができない。 それくらいに私は動揺していた。だってまさか海外に転勤だなんて、予想だにしていなかったからだ。そして樹くんは席を立ち、私の横まできて左手を取った。 何事かと、樹くんを見上げる。「俺に着いてきてほしい。結婚してください」「え……」突然のプロポーズにドキドキと胸が高鳴った。嘘? 本当に?

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   14_03 お互いの道 姫乃side

    仕事の合間を縫って、自分の荷物を樹くんの部屋に運び込んだ。少しずつ増えていく荷物。 少しずつ減っていく荷物。ここに越してきてまだそんなに経っていないのに、もう自分の部屋を引き払うなんて思わなかったな。そういえば、樹くんにこのアパートは単身用だからって指摘されて、私に彼氏がいないことがバレたんだった。ん……? 単身用?「ねえ、樹くん。ここって単身用じゃなかった?」「そうですよ。規約に、単身用(同居可)って書いてあるでしょ」「同居可……? やだ、騙された!」「騙す?」「最初に、ここは単身用だから、私に彼氏いないって言ってたじゃん」「ああ〜、カマかけただけだよ。その後、ちゃんと規約確認し直したし」「抜け目ない……」「姫乃さんが抜けてるだけなんじゃ」「むう」樹くんは楽しそうに笑いながら、「でも一緒に住めるんだからいいじゃん」と頭をポンポン撫でてくれる。それはそうなんだけど、やっぱり樹くんの方が一枚上手なんだよなぁ。「そのうちに、もっと広いところに引っ越しましょうか」「狭いほうが樹くんと近くにいられるから、ここがいいよ」「毎日姫乃さんを触れる」「何か言葉が卑猥」「想像しちゃった姫乃さん、エッチだね」「もう、すぐからかうんだから」ごめんごめんと言いながら、樹くんは私を引き寄せる。嫌じゃない私は、そんなやり取りさえも幸せに感じている。ずっとずっと、こんな日々が続いたらいいな。

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